インドPLI制度と投資環境の最新動向 ~日本の中堅企業が押さえるべきポイント~

注目を浴びるインド投資

 インドは2026年現在、名目GDPで約4兆3,000億米ドルに達し、世界第4位の経済大国です。G20諸国の中でも最も急速に成長しており、2026年の実質成長率は約6.4%と予測されています。2028年までには名目GDPでドイツを抜き、世界第3位に浮上する見通しです。2000年4月から2025年12月までの累計FDI流入額は1兆1,400億米ドルを超えており、長期的な投資先としての存在感は年々増しています。

 

 日本企業にとっても、インドは極めて有望な市場です。日本はインドへのFDI源泉国として第5位を占め、累計投資額は約4328,000万米ドルに達しています。国際協力銀行(JBIC)の2024年調査では、インドが15年連続で「最も有望な海外投資先」に選ばれており、現在約1,400社の日本企業がインドで事業を展開しています。

 

PLI制度とは何か

 PLI(Production Linked Incentive:生産連動型インセンティブ)制度は、2020年に導入されたインドの産業振興政策です。従来の関税保護や一律の補助金とは異なり、企業が基準年度の生産水準を上回る増分売上高を達成した場合にのみ、インセンティブが支給される仕組みとなっています。つまり、「作れば補助する」のではなく、「成果を出せばインセンティブを与える」という、成果連動型の政策設計が最大の特徴です。

 

 対象分野は14分野に及び、携帯電話・電子部品、ITハードウェア、医薬品、原薬(API)、医療機器、自動車・自動車部品、先進化学電池(ACC)、繊維、食品加工、白物家電、特殊鋼、太陽光発電モジュール、通信ネットワーク機器、ドローン・ドローン部品の14分野にわたります。制度全体の予算規模は5年間で約1.97兆ルピー(約260億米ドル)です。インド商工省の発表によれば、2025年12月末時点で累計投資額は2.16兆ルピーを超え、累計売上高は20.41兆ルピー、輸出額は8.3兆ルピーに達したと報告されています。直接・間接雇用の創出は約144万人に及びます。

 

PLI制度の課題と留意点

 もっとも、PLI制度にはいくつかの課題も指摘されています。分野別の成果にはばらつきがあり、先進化学電池や特殊鋼など一部の分野では投資の進展が当初の目標に及んでいません。行政手続の複雑さ、土地取得のボトルネック、物流インフラの不足といった構造的課題も依然として存在します。

 

 また、PLI制度が主に「組立型製造」の拡大に寄与している一方で、研究開発、サプライヤーエコシステムの構築、技能人材の育成といった上流の産業基盤が十分に整備されているかどうかについても議論が続いています。日本企業が進出を検討する際には、インセンティブの恩恵だけでなく、こうした構造的な制約も踏まえた上で判断することが重要です。

 

進出形態の選択肢

 インドへの事業進出にあたっては、参入形態の選択が極めて重要です。主な選択肢としては、完全子会社(WOS)、合弁会社(JV)、支店(BO)、連絡事務所(LO)の4つがあります。製造業やサービス業で長期的な事業展開を目指す場合には、完全子会社が最も広範な事業活動を行える形態であり、インド国内法人と同等の税率が適用されます。

 なお、日本からの投資はほとんどの分野で自動承認ルートが適用され、政府の事前承認は不要です。ただし、取締役のうち少なくとも1名は、直前の対象期間においてインドに182日以上滞在していた居住取締役である必要がある点、また日本で作成した書類には公証とアポスティーユが必要となる点には留意が必要です。

 

インド進出を検討する企業へのアドバイス

 地政学的なサプライチェーン再編、いわゆる「チャイナ・プラスワン」戦略が加速する中、インドは日本の中堅企業にとって最も現実的な製造・サービスの展開先の一つとなっています。PLI制度のインセンティブは魅力的ですが、制度の恩恵を最大限に活用するためには、対象分野の選定、適切な参入形態の設計、そして現地の法規制やコンプライアンス体制の構築を一体的に進めることが不可欠です。
 特に、2025年のRBI改訂マスター・ディレクションにより、インド子会社を通じた組織再編やM&Aのストラクチャリングの幅が広がっています。また、2023年のデジタル個人データ保護法(DPDPA)の段階的施行や、2025年に施行された4つの新労働法典など、コンプライアンスの対応範囲も拡大しています。インドへの進出は、単なる製造拠点の移転ではなく、法務・税務・人事を含む総合的な経営戦略として捉えることが成功の鍵です。

 

 

 

執筆者:弁護士 田中雅敏(明倫国際法律事務所)/Advocate Gaurav Dhwaj & Nikita Singh (Dhwaj & Associates)