インドにおける食品輸入規制の最新動向と実務対応②

1 インドへの日本食品輸出の基本ステップ

⑴ HSコードに基づく輸出品の分類

まず、輸出する食品をインドのHSコード(インド版の輸出入品目分類)に基づいて正しく分類する必要があります。この分類により適用される関税や特別な規制が決まるため、非常に重要なステップです。例えば、緑茶、スナック類、加工食品など、それぞれの食品に応じて添加物の基準、汚染物質の管理、表示方法などの規制が個別に定められています。

 

⑵ 適切なインド現地パートナーの選定

現地パートナーの選定は、輸出ビジネスの成功を左右する非常に重要な要素です。単に必要なライセンスを取得しているだけでなく、規制への対応能力がある事業者をパートナーに選定すべきです。また、インドは地域によって文化や市場の特性が大きく異なるため、パートナー候補が、ターゲットとする地域の法規制に精通し、現地市場に関する深い知識を持っているか否か精査する必要があります。さらに、日本の商習慣と調和した業務運営ができるパートナーは理想的なパートナーと言えます。

現地パートナーを選定する際に確認すべき点として、次の4つが挙げられます。

 

① 規制対応能力

日本企業が輸出する製品の製品カテゴリについて、輸入のためのライセンス(FSSAI輸入ライセンス)を有することに加え、販売対象地域ごとの州ライセンスを保有している必要があります。

ムンバイ、デリー、バンガロール、チェンナイ、コルカタ、ハイデラバードの主要都市でライセンスを持つパートナーであれば、インドの富裕層向け食品市場の約60%をカバーすることができます。

 

② 安定した法令遵守体制とその実績があること

法規制を確実に遵守する体制があり、実際にこれまで安定して法令を遵守してきた実績があること。適切な保管設備やコールドチェーン機能、販売店・スーパー・ECプラットフォームとの流通ネットワークを確保していること。

 

③ 市場開拓力

ターゲットとする地域における潜在顧客の嗜好やニーズへの理解が深く、ローカライズや販売戦略についてアドバイスができること。日本のビジネス習慣や価値観を理解し、相互に協調できることも重要です。

 

④ 企業としての信頼性

財務的な健全性、組織的な管理運営体制を備え、短期的な取引ではなく、長期的視点で市場展開に取り組む姿勢があること。

 

⑶ 輸出入業者コード(IEC)の取得

インド現地パートナーは、FSSAI輸入ライセンスに加え、外国貿易総局(DGFT)に輸出入業者コード(IEC)を取得する必要があります。この輸出入業者コードはすべての輸出入取引において必須です。

 

⑷ 出荷前の書類準備

通関手続きをスムーズに進めるためには、書類を正確かつ漏れなく準備する必要があります。一般的に求められる書類は次のとおりです。

 

① 原産地証明書

製品が日本で製造されたことを証明します。

 

② 植物検疫証明書

茶など植物性の製品に必要となります。

 

③ 衛生証明書

動物由来の製品に必要な場合があります。

 

④ 商業送り状および梱包明細書

国際取引の標準書類です。

 

⑤ FSSAI輸入ライセンス

輸出品のカテゴリについて、現地パートナーが有効なライセンスを保有している必要があります。

 

⑸ 関税およびCEPAの優遇措置

2011年8月1日に発効した日印包括的経済連携協定(CEPA)により、多くの日本食品が関税優遇の対象となっています。関税優遇策には、即時に関税が撤廃される品目(カテゴリーA)と、5年(カテゴリーB5)または10年(カテゴリーB10)かけて段階的に下がる品目の2つのパターンがあります。例えば、優遇の対象にはライ麦・大麦・オート麦・そば・カナリーシードなどの穀物が含まれ、緑茶は関税が即時に0%になります。その他の加工食品は段階的な引下げの対象になる場合があります。ただし、CEPAの恩恵を受けるには、適切な書類と原産地規則の遵守が必要であり、日本企業の中にはこれを十分に活用できていないのが現状です。

一部製品には依然として高関税が課されています。また、すべての輸入品にはインドの物品・サービス税(GST)が課されます。場合によってはその他にも追加の課税がされます。これらの税負担は通常、製品コストに15~25%程度上乗せされるため、正確な価格設定が収益確保において重要です。

通関時には、インドの基準への適合状況を確認するために検査が行われ、製品サンプルが採取されることもあります。ただし、FFMF制度(インドにおける食品輸入規制の最新動向と実務対応①参照)に基づいて登録された施設を保有する企業は、通関処理の迅速化や検査頻度の軽減といった優遇を受けられる場合があります。

また、FSSAI(インド食品安全基準局)は、第三国へ再輸出する場合や輸出向け製品の製造を目的として原材料となる食品を輸入する場合について、一部の認可要件を免除しており、こうしたビジネスモデルを採用する日本企業にとっては有利になる可能性があります。

 

執筆者:インド法弁護士 シュレヤ(翻訳 弁護士 辻陽加里)